私の生きざま 9
開業医という身分は、なってみるとこの上もないものだった。
勤務医とは違って、誰に気を遣うこともなかった。
すべてが自由に感じられた。
生活の全般にわたって、他者に対して主体的でいられることを如実に体験できた。
開放感があった。
ここで経験した特異な問題がふたつ思い出される。
開業して間もなく、未知の男性から電話があった。
電話に出ると、「医療刑務所に居たそうですが、・・・」といきなりいわれた。
藪から棒のぶしつけな詰問だった。
他に精神科医は居るのか、内科なども診るのか、などと訊かれた。
未知の者にそうしたことを訊かれるいわれはなかった。
だが、腹を立てるわけにはいかなかった。
開業医は、勤務医と違って、自分以外に身を護る手立てがない。
自由であることは、自分で自分の身を護ることでもある。
また、私自身も、「刑務所の医者」ということへの「偏見」が世の中にあることを知ってもいた。
罪を犯した者は、一般の人間と同列に扱うわけにはいかない。そういう想いが世間にはある。
私も、それは理解している。
私が医療刑務所に入れていただきたいと思った理由は、職を得ることのほかに、罪を犯した人びとへの関心があったからでもある。
社会的立場が危うくなっている人びとの問題は、私には人ごととは思えなかった。
自分を振り返ると、私自身が社会的立場という意味では怪しげなところがあった。
それを認めつつ、開業医という不安定な身分をヨシとしていた。
罪を犯した人びとは、社会的立場から墜ちた人びとである。
「裏社会」を生きる羽目になっている人びとである。
その「裏のこころ」自体は、無論、誰にでもある。
それを踏まえて「表のこころ」を、我われ一般は生きている。
私自身が、そういう世界に墜ちるとは思っていなかったが、無縁とはいえなかった。
そういう気持ちを持っているので、こころの陥穽に墜ちた人びとが他人事とは思えなかった。
冒頭の無礼な男は、自分を知らない愚か者でもあった。
勤務医とは違って、誰に気を遣うこともなかった。
すべてが自由に感じられた。
生活の全般にわたって、他者に対して主体的でいられることを如実に体験できた。
開放感があった。
ここで経験した特異な問題がふたつ思い出される。
開業して間もなく、未知の男性から電話があった。
電話に出ると、「医療刑務所に居たそうですが、・・・」といきなりいわれた。
藪から棒のぶしつけな詰問だった。
他に精神科医は居るのか、内科なども診るのか、などと訊かれた。
未知の者にそうしたことを訊かれるいわれはなかった。
だが、腹を立てるわけにはいかなかった。
開業医は、勤務医と違って、自分以外に身を護る手立てがない。
自由であることは、自分で自分の身を護ることでもある。
また、私自身も、「刑務所の医者」ということへの「偏見」が世の中にあることを知ってもいた。
罪を犯した者は、一般の人間と同列に扱うわけにはいかない。そういう想いが世間にはある。
私も、それは理解している。
私が医療刑務所に入れていただきたいと思った理由は、職を得ることのほかに、罪を犯した人びとへの関心があったからでもある。
社会的立場が危うくなっている人びとの問題は、私には人ごととは思えなかった。
自分を振り返ると、私自身が社会的立場という意味では怪しげなところがあった。
それを認めつつ、開業医という不安定な身分をヨシとしていた。
罪を犯した人びとは、社会的立場から墜ちた人びとである。
「裏社会」を生きる羽目になっている人びとである。
その「裏のこころ」自体は、無論、誰にでもある。
それを踏まえて「表のこころ」を、我われ一般は生きている。
私自身が、そういう世界に墜ちるとは思っていなかったが、無縁とはいえなかった。
そういう気持ちを持っているので、こころの陥穽に墜ちた人びとが他人事とは思えなかった。
冒頭の無礼な男は、自分を知らない愚か者でもあった。
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